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山梨市長がらみの詐欺事件と「元」医師 [社会]

こういうゴシップまがいのネタを書くとブログの品位が落ちるのだが、山梨市長の妻、望月治美の詐欺事件は田舎の名士社会の泥臭さを代表するものだという気がする。二月に離婚したから逮捕時点では元妻ということになるが犯行時はまだ妻だった。

夫の望月清賢(せいき)は、父親から引き継いだ、地元の石材会社「差出石材」の二代目社長だった。自民党の市議、県議を経て、保守陣営の後押しで山梨市長になった。日本会議のメンバーでウルトラ右翼だ。建設関連会社と政治家の兼任はまずいので指出石材の社長には妻の治美を当てた。実質的に会社を経営していたのはもちろん望月清賢だろう。詐欺事件にも関与していたことは当然疑われる。選挙事務所は差出石材だし、ホームページには著作権が差出石材にあるとまで書いてある。

政策などはありきたりのもので、何かを実現しようといった熱意は感じられない。地方名士の名誉職といった感じだ。こういった場合、市政も会社経営もおざなりになりやすい。差出石材は6億円の負債を抱えていたという。羽振りは良いように見えても、経営は火の車だった。金を使った選挙に落選してもとが取れなくなった。税金も滞納し、08年には土地・建物の差し押さえを食らっている。14年には借金を返済せずに訴訟を起こされ4200万円の支払い命令を判決されている。それでも右翼でありさえすれば市長になれるというのが田舎社会だ。

今回は、石材の転売で確実に利益が出るとして、何人かから3億円以上をだまし取ったというものだ。妻名義ではあるが市長が関与していることは否定のしようもないだろう。金は借金の支払いに消えただろう。詐欺というより、金策に困って返す当てのない借金をしてしまった事件といった感じがする。もちろん、市長と言う役職を使ってだましたことになるから立派な詐欺犯罪ではある。

この詐欺に手を貸した、あるいは手口を指導したのが「元医師」の越塚峰嗣 だと言うことで一緒に逮捕された。共犯といったほどの報酬を得ていないことから不起訴にはなったが、なぜ医者がこんなこ場面に出てくるのかが疑問の対象になる。越塚峰嗣 の転落人生を追ってみよう。ネット社会は恐ろしい、経歴など検索すればすぐに出てきてしまう。

1954年に生まれで、大学は群馬大学医学部だ。国立大学の医学部だから、結構難しい試験を突破して入学しただろう。大学病院で研究して、29歳のときに論文に名前を出している。

「当科においてRA患者に施行したTHRの術後経過の検討 」(1983) 群馬大学整形外科

しかし、共著者に過ぎず、これ以外に論文は見当たらない。研究熱心ではなかったようで、学位論文も書いていない。その後整形外科医として国立高崎病院に移ったようだ。ここで日航機墜落事件に遭遇する。500人もの乗客が即死する中で奇跡的に12歳の川上慶子ちゃんが生き残り、国立高崎病院に運び込まれた。この治療チームに在籍して、慶子ちゃんを島根県大社町まで車で送り届けたスタンドプレーでローカル人気者になって名医だという風評につながった。31歳の時だ。

研究者としても医師としても芽が出なかったであろう彼は、この人気を利用して病院経営を思いついたのだ。バブル経済のころで、銀行はいくらでも融資してくれた。彼はなんと32歳にして三峰 病院を設立して院長・理事長になった。経営に道を見出したらしい。エステとかフィットネスとかの多角経営に手を広げて行った。医は算術の開始だ。早くも1987 には保健所から医師数不足の指摘を受けているから、病院経営も最初から「まじめ」ではなかったようだ。

バブルに浮かれて派手な生活をしていたらしいが、三峰 病院は1989年には赤字を抱えるようになった。放漫経営を反省して病院を立て直したということが1992年の文春記事になっている。ニッセイが出している雑誌にも、1999年に「トップと職員の人間性を磨き地域住民に安心感与える存在に」といった記事(ばんぶう (222), 144-146, 1999-12)を寄せているが、実際には1992年ころから、保険の架空請求に手を染めていた。その年の12月には不正請求が発覚し、病院は閉鎖になった。四億八千万円をだまし取ったことになるが、三億八千万円については、2006年に逮捕された時点で詐欺罪の時効(七年)が成立していた。 このことで医師免許を取り消され「元医師」になったわけだ。

越塚峰嗣と望月夫妻が結びついて今回の詐欺事件が起こった。ダメ経営者どうしの結びつきであり、裏道に活路を見出すことになったのは当然ともいえる。地元の名士として外面を繕いながら、足元が崩れて行く中で、倫理性などといった感覚を失ってひたすらその場しのぎの金策に狂奔する姿は地盤沈下する地方社会を象徴するものではある。日本各地に同じような現象が生まれている。

「行政がゆがめられた」のは事実---加計疑惑 [政治]

「行政がゆがめられた」と言う前文部次官の前川氏の発言に竹中平蔵が文句をつけていた。「行政を歪めていたのは官僚で、戦略特区はこれを打ち破るものだ」と言う。

加計汚職を官僚批判にすり替えようとしている。前川氏は戦略特区が行政を歪めたと言っているのではない。加計特別優遇が行政を歪めたのである。獣医養成が必要なら全国にどんどん獣医学部を作ればよい。別に特区などと地域を限る必要もないのだ。加計にだけ作らせ、他には作らせないと言うことこそ私物化した岩盤規制である。

事の本質は私物化であり官僚批判や規制緩和とは関係がないのだが、国家戦略特区といった政策手法自体が加計のように行政を歪める危険性をもったものではある。行政は、実情判断の上に整合性を持って進められるものだ。大学に獣医学部を新設するのは、どれだけ獣医が必要かという判断に基づく。

古くから家畜が農耕や運搬に使われてきた日本では獣医が果たす役割は大きかった。しかし、自動車や耕運機が普及するとともに獣医の需要は減って来ている。ペットショップなどで新たな需要を見出して生き延びているのが現状だ。

戦略特区で言っていることは、遺伝子操作など新たな産業創出に動物実験など獣医の果たす役割が大きいと位置付けている。しかし、それは本当だろうか。新設の獣医学部の卒業生がそういった分野に就職していく可能性があるのだろうか。

遺伝子やゲノムといった先端の生物学研究は動物実験をやるだろうがそれに獣医の資格は必要がない。卒業生は従来通り動物病院での診療に携わるしかないとすれば、獣医養成の行政判断を歪めるものでしかない。

前川氏が疑問とした事は、新しい獣医需要というものが従来のものとどう違うかが明確でないと言う事だった。それに対する回答なしに、「総理の意向」で押し切ったことが加計問題の中心だ。産業創出は作文だけで、全く内実がないのだ。

獣医は社会的にも医者と異なり高収入の職業とはなっていない。地方の医者不足が深刻な今、実は医学部の増設を抑えていることこそ岩盤規制なのだが、それには手をつけようとしない。地方自治体による福祉の増強なども国が規制しているが、これにも手を付けない。岩盤規制を打破するなどと言っていること自体がまやかしなのである。

戦略特区は行政判断の議論を飛び越えて進められる。だからこういった「お友達優遇」とか、特定の企業の優遇処置と結びつく可能性が高い。実際に、多くの特区がこうした裏事情で進められているのではないかと疑われる。

戦略特区の正規の手続きとしては、なぜこの地方に特区が必要なのかの申請があって、それが認められた場合に事業者を公募しなければならない。今治は特別な地区で、ここにだけ獣医学部が必要だなどといった理由は見つけられるわけがない。

今治市は最初から加計ありきで特区を申請した。「加計が今治に作りたいと言っているから」以外に理由はないのだ。「総理の意向」で認められることがわかっていたから、公募前にボーリングをしたり、電力会社に契約予定を申し込んだりした。

なぜ、今治にしたか? 担当大臣は教員も確保して準備が進んでいるからだと答えたが、それは論理的におかしい。まだ事業者の公募も始まっていないのだから、教員の確保など不可能なのである。審査は形式に過ぎず、すべて「総理のお友達だから」で決まったことがわかる。安倍のお友達である「加計の特別扱い」であり、それに特区という形式を取らしたに過ぎない。

安倍一強の弊害ここに極まれり。日本という国は総理とのコネですべてが決まる。何の公職にもない安倍の妻に、公務員が5人も秘書として配置されている。総理の意向を忖度して国有地の売却を破格の安値にする。政府が私物化されてしまっているのである。

通信速度のまやかし-----wifiルーター 603HW 502HW [技術]

宣伝によるとwifiルーターの通信速度が随分と早くなっている。Y!mobileの最新機種603HWなどは612Mbpsだというから光ファイバーにひけを取らない速さだ。ところが実際にはとてもそんな速度は出ない。公称の100分の1などと言うことはあまりにも違いが大きい。この疑問に対して会社側は「あくまでも理論値であり、実際の速度を保証するものではありません」と一言で片づけている。一方で速いと言う宣伝を繰り返すから、理論値であるとしても、それ相応に速いものだということが一般に信じられているようだ。

こうした速さのもとになる技術はCA、4x4mimo、64QAMなどといったものだが、要するに多重な通信経路、周波数を使って一度に送れる通信量を増やすというものだ。当然、これが有効に使えるのは多くの周波数帯の通信設備が整備されていて、しかも空いた状態にあることが必要になる。実際には、スマホやタブレットを売りまくっているから、どの周波数帯も混雑しており、こういった新技術が使える状態ではないのだ。新技術で多くの電波を使うことになればもちろん渋滞はさらに増える。

空間は1つしかなく、電波の周波数は限られている。時間で細切れにしてユーザーに配分しているからユーザーが2人になれば通信速度は一人の時の半分だ。ユーザーが多くなればたちまち速度は遅くなる。通信速度は端末の通信速度ではなく、電波使用の混雑で決まっているのだ。だから新しい技術は通信速度の改善とはほとんど関係がない。

こうした新技術は宣伝のためだけにあり、会社側も実は実際に使うつもりがないようだ。603HWの販売が始まったのは2017年2月だが、半年たった今も64QAMを使うための基地局整備を殆どやっていない。やってもどうせ使えないとわかっているからだ。実際に使ってみて速いなどというレビュー情報は全部ウソである。なぜなら、東京にすら使える場所が一つもないからだ。福岡と名古屋のほんのわずかの場所にアリバイ的に設置されただけだ。会社が提供するエリアマップでは4Gが使える事しかわからず、64QAMが使える場所は別にあるこのリストを見なければわからない仕掛けになっている。

CA、4x4mimo、などは2,3年前から始まっているが、これも実際にはあまり使われていない。限られた周波数帯にひしめくユーザーの数は増え続けているのだから、通信速度は遅くなるばかりなのである。ネット上には新機種の通信速度が速くなったなどということが垂れ流されているが全く根拠がない。中途半端に古いものよりも速いことはあるいはあるかもしれないが、実は新しい端末よりうんと古い端末の方が速いのである。

GL01PはLTEが始まったころの端末で、今は契約することができない。会社は使ってほしくないのだ。この端末に対しては、7GBでなく10GBの規制をかけたままになっている。10GBで契約してしまっているから今更7GBにすることは出来ないからだ。実際には10GBを越えても普通に使え、20GBでやっと速度制限が入る。なぜかというと、この端末には新型の端末のような「低速モード」がないからだ。速度制限は基地局側でパケットを選別してやらねばならない。

1.7GHzしか使えないし、最高速度は75Mbpsでしかないのだが、GL01Pはこの範囲で最大限速く通信しようとしてしまう。実際には速度制限がかかるはずの10GBを越えた15GBを使った状態で30Mbpsが実測されている。同じ場所で502HWを使ってみると、4Mbpsしか出ない。会社側は新しい端末の良く思われそうな事だけを宣伝しているが、実は会社にとって一番重要な新機能は、混雑を緩和するために通信速度を制限する機能を備えた端末であることなのである。

あえて言うあんたらアホの集まりだ-----目に余る政界劣化 [政治]

昨今の安倍政権の驕りと傍若無人振りはひどい。国会でどれだけ嘘をついても平気、真実が明らかになっても絶対に嘘を認めない、昨日言ったことを舌の根の乾かないうちに覆す、自らの説明責任を相手の責任にすり替える、肝心の質問に答えないで関係のないことを長々と喋る...などなど、今国会の安倍政権の振る舞いは、日本の憲政史上空前の汚点を残したといっても過言ではない。

こうした国会の汚点を数の力で押し切っているが、その数を構成しているのが劣化した議員たちだ。政治家として最低限必要な倫理感覚がない国会議員が続々生まれてくる。もう土壌が腐敗してしまっているとしか言えない。その典型が「安倍チルドレン」といわれる自民党当選2回組だ。既に発覚したものだけでも、以下のように枚挙の暇もない。

武藤貴也(滋賀4区、未公開株絡みの金銭詐取で離党)
宮崎謙介(京都3区、育休取得を表明しながら不倫で辞職)
務台駿介(長野2区、政府職員にオンブで被災地視察)
中川俊直(広島4区、重婚容疑や不倫、ストーカー行為)
大西英男(東京16区、がん患者は「働かなくていい」)

それに加えて今回の豊田真由子(埼玉4区)だ。罵詈雑言の激しさは常軌を逸している。尋常のキャラクターではない。やはり人格破壊の病気だというしかない。国民を代表して政治を議論するなどというレベルからは程遠い。

本来、民主主義はこういった愚劣な議員を国民の意思で排除できるのが筋なのだが、そうなっていないことが問題だ。選挙期間がやたら短く、ビラや立ち合い演説会を極端に制限して、金の力で作られるイメージだけで投票させる仕組みがあるし、小選挙区で少数意見を抹殺してしまう。さらには、小選挙区で負けてさえ比例復活を許す二重立候補制など制度的にも民意を捻じ曲げる仕掛けを作ってしまっている。

しかし、安倍政権のやりたい放題を許してしまっているのは結局、国民だ。こういった制度の下でも、投票者がしっかりと自覚を持てば民主主義を実現する可能性は残されている。議員の劣化・腐敗に関しては、当該選挙区の住民に自らのアホな投票を痛烈に反省してもらいたい。

あえて言う。滋賀4区、京都3区、長野2区、広島4区、東京16区、埼玉4区、あんたらはアホの集まりだ。あんたらのアホさのために日本中が迷惑している。

逃亡46年、大坂正明容疑者は無罪になるのではないかな [社会]

46年間指名手配されていた大坂正明容疑者が逮捕された。全人生を逃亡に費やすくらいならもう少し早く捕まったほうが良かったのではないかと思う。警官殺害の容疑だから、世間では「罪を償ってほしい」とか「卑怯な逃亡犯」といった風当たりが極めて強い。しかし、1971年の空気を吸ったものの受け取り方は少し違う。この事件はむしろ事故といった感覚がある。

沖縄は米軍の占領下にあり、全島が米軍基地状態だったのだが、日本に返還されることになった。これで米軍基地が無くなるかと思ったら、基地付き返還だということで大いにもめた。これは今も尾を引いている問題だ。基地反対運動が盛り上がる中で、中核派が渋谷で大暴動を画策したというのが事の次第だが、気分的には沖縄返還とのかかわりは、ほとんどない。

当時の若者に充満していたのは一種の閉塞感だ。マイナンバーや共謀罪といった締め付けが進んでいるが、その前兆は70年代にもあった。建国記念日が復活し、君が代の強制が始まったりしていた。今ではそれが当たり前のようになって反発も少ないのだが、戦後の自由な時代を過ごしてきた当時の若者には崖っぷちの恐怖だった。このまま窒息しそうな社会に進んで行くことに対する反発は強く、世の中をぶち壊したいと言う破壊衝動が誰の胸にも実は少しはあった。

60年代の末、ベトナム反戦運動、安保条約反対運動などのデモが行われたが、ただ歩くだけでなく、道いっぱいに広がったり、規制してくる警官隊ともみ合ったりするほうが戦う実感がある。運動不足の解消とかうっぷん晴らしで気軽に参加したものだ。それが70年当時の空気だった。

「中核派」とか「革マル派」などと言うグループがこういったちょっと過激な行動を組織するようになった。棒を持ってデモをするとか、警官隊に石を投げたリして逮捕もされるのだが、それが逆に話題と共感を呼んで、参加者が増えていく事になった。各派は過激さを競うようになっていった。

大学内での暴動とも言える全共闘の学内占拠でさらにこれが広がったが、中でも中核派はその行動力で人気を博した。参加しないまでも「やれ!やれ!」といった声援を送る人は多かった。社会には破壊衝動が充満していたのである。

しかし、一番先鋭な学生たちは中核派では飽き足らず、赤軍派などといった超過激派に取り込まれるようになっていった。業界では中核派の隆盛にも陰りが見えてきたのだ。ここはひとつ大々的な闘争をやって見せて、さらなる増殖を図らねばならない。過激な闘争のパーフォマンスこそが組織拡大の要点だと信じていた。暴動が目的であり、沖縄の基地はどこかに飛んでしまっている。

1971年11月14日に全国から何万人もの参加者を動員して、渋谷一帯を開放区にすると予告した。「邪魔立てする機動隊はゲバ棒と火炎瓶でせん滅する」という鼻息の荒い宣言だった。当然、警察側も徹底して鎮圧するという姿勢を見せ、全国から警察官を呼び集めて機動隊を編成した。死んだ中村巡査は新潟から派遣された人だ。

当日、各地から集まった人数は何万人には届かなかったが何千人かにはなっていた。ゲバ棒を振り回し、火炎瓶を投げて渋谷一帯は大混乱に陥った。「犯人」と「刑事」といったものではなく、機動隊と中核派の戦争のような様相を見せていた。渋谷駅の衝突では永田典子という高知から来た女性が警官隊に殺されているからどっちもどっちなのだが、このことは今日忘れられている。

集会は禁止され、電車も止まったりしたので、衝突は分散され、代々木駅から渋谷に向かう一隊もあった。駅に集まった参加者を前に、肩車されて演説した青っぽいコートに白ヘルメット、ネクタイを締めると言ういでたちの男が目撃されている。単なる学生ではない。これが主犯とされる星野だ。「今こそ決戦の時だ。命がけで戦え。邪魔立てする警官は容赦なく殺せ!」火を吐くようなアジテーションだった。成田闘争の争乱ですでに指名手配されているにも関わらずこの場に現れた筋金入りの指導者だ。

この150人ほどの一隊はかなり強力で、渋谷に向かう途中の交番を襲撃して火炎瓶を投げつけたし、警官隊も阻止できずに後退した。というか、逃げた。警官隊にしっかり組織的な統制がとれておれば、そんなことは起こらないのだが、ばらばらと逃げたので、取り残される警官もでた。逃げ遅れたのが、田舎から来て土地勘のない中村巡査だった。

デモ隊に取り囲まれて袋叩きになってしまった。渋谷駅で女子参加者が殺されたりしているし、警官にはさんざ殴られているから参加者はいきり立っている。誰かが、倒れている中村巡査に火炎瓶を投げつけた。デモ隊はさらに進んで渋谷を目指したのだが、結局は阻止され夜が更けると共にばらばらと解散して行き、現場には倒れた中村巡査が残され、病院に運ばれたが亡くなった。

計画的な殺人ではなく、集団心理でやってしまったという偶発性のあるものだ。誰が殺人犯なのかということの特定はなかなかむつかしい。当日合計330人もの参加者を逮捕したが、多くは別の現場だ。もちろん犯人割り出しに協力は得られない。そもそも全国から集まった、何千人もの参加者は、それぞれに面識がない。白ヘルメットにタオルの覆面だから識別も出来ない。現場に誰がいたのかは当事者にもわからないのである。

中村巡査を殺したのは、多分都内の労働者の一隊だろうと推測された。新聞にもそのように書いてあった。現場付近は「全学連」ではなく「反戦」と書いたヘルメットが多かった。星野が指揮している事からみても、闘争経験豊富なコアな部分がいたはずだ。星野は先頭で指揮していたから少し後方で起こった殺人には直接の関与はないはずだが、警察としては何としても犯人を捕まえなくてはならない。主犯は星野と決めて執拗に捜査を続けた。

捜査は難航した。星野が率いていた筋金入りの連中は、逮捕されても絶対に口を割らない。警察が目を付けたのは、白ヘルばかりの一隊のなかに黒ヘルが少し混じっていたことだ。組織的に中核派とつながりのない若者が闘争に参加する時に、勝手に白ヘルを使うわけには行かないので黒ヘルを被ったりする。これを追及して行くと、群馬から来た高校・高専の少年たちだということがわかった。高崎経済大学の学生たちに参加を呼びかけられたらしい。

初めて闘争に参加したような少年たちは取り調べやすい。結果、現場近くにいた高崎経済大の3人の学生の名前が特定できた。すでに退学して職業革命家となっているが、星野も、もとは高崎経済大だからつながりはつく。「星野が指揮する高経大グループによる殺人」ということで、逮捕そして裁判になった。「星野と思しき男がが命令して、自分以外のだれかが火炎瓶を投げた」といった証言を引き出している。少年たちから見れば星野は雲の上だから面識はない。このとき現場に居合わせたもう一人の人物として特定されたのが大坂正明だ。

大坂が逃亡中に裁判は進み、星野は無期懲役、荒川は25年服役して出所した。裁判は、「星野が指揮する高経大グループによる殺人」としての判決になっているが、判決文を見ても、誰か犯人がいるはずで、このグループ以外名前も特定できないからこれにしておこうといった意味合いしか読み取れない。

裁判の過程で、かなり強引に、星野が現場で高経大グループを指揮して殺したというストーリーが展開され、それがすでに判決として確定している。大坂正明は千葉工大だから高経大グループとは結び付かない。星野が主犯だとするストーリーが強調されるかぎり、大坂の果たした役割はあまり盛り込めない。ただ現場近くにいた名前のわかるもう一人の男というだけになってしまう。

この事件に関与したということであれば、凶器準備集合、暴行致死、公務執行妨害、殺人幇助などいろんな罪名が考えられ、大坂の役割に見合ってこれらを適用することはできる。しかし、46年間逃亡した結果、殺人以外は全て時効になっているから、有罪とするためには大坂本人が殺人をしたという証拠がいる。主犯・指揮者はすでに星野になっているから実行犯しかない。物的証拠は何もないし、証言も大坂の具体的な行動に関するものはない。もちろん本人の自白は考えられない。これで裁判は難しいだろう。大坂正明は結果的に無罪になるのではないだろうか。

しかし、立憲主義も法の支配もないがしろにされているこの頃だ。どんな無茶苦茶な論理の裁判になるかわからないといった状況ではある。
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