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MRJの行方---日本に航空機産業は育つのか [技術]

2015年にMRJが初飛行して注目を浴びた。順調に行けば、2018年には納入が始まり、すでに250機の受注を受けていることもあって、大いに期待された。しかし、2017年になって、またもや納入時期の延期が発表されることになった。2020年を目指すと言うが、それもどうなるかわからない。

延期の理由は型式認定取得の困難である。航空機を販売するためには十分な安全を確保しているという認定が無ければならない。これはなかなか厳しいもので、電線の一本一本にまで基準が設定されている。この基準を全部クリアーするためには、大幅な設計変更が必要であることがわかった。これまでにも何度も審査があって、そのたびに小さな設計変更を行ってきたが、それでは収まり切らないことになったのだ。

納期の遅れは、2つの重要な問題を引き起こす。ひとつは、先行する競合機に市場を奪われることだ。受注しているものも、取り消される可能性がある。2つ目は開発コストの増大である。今回の延期で開発コストは30%増えることになると言う。2015年段階では、700機納入すれば採算ラインを越えることができると考えられていたが、こうなってくるとそれは厳しい。

日本はかつて政府主導で、ゼロ戦以来の航空機技術を復活させて、各社共同の旅客機YS11を開発したことがある。この時は結局採算割れになって、生産を中止してしまった。寄り合い所帯で、天下り官僚が口出ししたことが反省点となり、MRJでは、三菱重工一社にまかせ、500億円をくれてやった。YS11の時代とは異なり、三菱重工はボーイングの下請けで部材を作ったり、ジェット戦闘機のライセンス生産などの経験を積んでいる。MRJは性能的にも十分世界に太刀打ちできる意欲的なものになった。

しかしながら、体質的にはYS11と変わっていない。相変わらず政府の金をあてにしているし、軍事技術をバックにしている。軍事開発はいくらでも金をせびることができることができるという強みがあるが、このことで、どうしても生産・開発コストの管理にゆるみが出てしまう。中型ジェット旅客機はビジネスの世界であり、軍事技術の延長では対抗できない。

現在の中型ジェット旅客機はカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラレルが席巻している。MRJがこれに割り込んで行って採算が取れるかどうかは疑問が残る。採算ライン700機がどうなったかは言明されていないが、開発費が増大してしまった今では、もっと増えているはずだ。設計が古くなる前に1000機も売るのは誰が見ても厳しい。

この先さらに競合が見込まれるのは中国のARJ21である。アメリカ航空機のライセンス生産から始まっており、マクダネルダグラスのMD-90そっくりではあるが、ウイングレットがついているなど違いがある。航空機は少し違えば全体設計が必要になるのでやはり独自技術として消化しなければ作れない。今後、中国機が世界を飛ぶことになるのは必然だろう。

MRJが苦労している型式認定はアメリカないしヨーロッパのもので、これがないとアメリカやヨーロッパに売れないから採算の見込みが立たない。中国の強みは、国内需要だけで採算が取れることだ。ARJ21はすでに成都上海間の航路に就航した。国内で実績を積めば、やがてはアメリカやヨーロッパにも進出することができるだろう。

日本の自動車産業や電器産業は、ます小型車の国内需要で生産体制を確立して、国内で得られた利益をもとに安い値段で輸出をすることで発展した。しかし航空機には、最初から世界を販売市場としなければならないと言う課題が課せられている。果たして自動車・家電を引き継ぐものとして航空機が「離陸」できるかどうか、まさに正念場ということになる。

現在の日本の産業は自動車・エレクトロニクスで持っている。家電にはすでに陰りが見え、自動車もアメリカなどでは徐々に韓国車が増えている。やがて日本の独壇場ではなくなることが必至だ。それでなくとも自動車は現地生産が主流になってきており日本の生産物であり続けることはない。大量輸出の夢を捨てきれず、将来を原発と航空機に賭けるという無理な選択が非常に怪しげになってきた。

一番気になるのはこうした技術発展の基礎となる技術者基盤が失われていることだ。MRJ開発でも今後欧米人技術者の比率を増やして行くと言う。非正規雇用が増えて技術者の育成ができない。宅配・外食・介護といった低賃金労働のピンハネばかりが増える産業構造になってきており、学校では、道徳や英語に時間を取られて理科がしわ寄せをうけている。こうした施策を続ける政府のもとでは、未来産業の立ち上げはおぼつかない。まず足元を固めないことにはいかなる方策もないだろう。

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