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イレッサ裁判(5)---事件の本当の原因 [イレッサ]

前回までの記事からもわかるように、イレッサ事件は、拙速な治験と認可で引き起こされた。十分な治験を行い、適応症と副作用がはっきりしてから承認しておれば、イレッサは事件なく受け入れられたものだ。

問題は、なぜそのような拙速を犯したのかということだ。薬剤の認可に時間がかかることで定評がある日本が、なぜアメリカに1年も先行して、わずか6ヶ月の審査で承認したのか?この問いに答える推論を提示してみよう。いまのところこれを裏打ちする資料はそろえ切れていないことをお断りしておく。

日本の薬事審査が遅かった原因の1つは体制にあった。1997年までは厚生大臣の諮問機関である中央薬事審議会が医薬品を承認し、実際の審査は厚生省の職員が行っていた。10名程度のお寒い状態ではあった。いわゆる行革を利用して、この年に「医薬品医療機器審査センター」が、独立行政法人として発足し、200名以上の体制で審査に取り組むこととなった。公務員を減らすと言う名目で、ちゃっかり天下り先を肥大化させるという行革官僚の常套手段だ。

この「改革」の成果を示すためには、話題になった分子標的薬で、すばやい承認のパーフォマンスが必要だったことはうなづける。それだけではなく、実はこの「改革」が審査の質的な変化も、もたらしたのである。新しい体制は開発促進者が規制を担当するという原子力保安院と同じ構造のものとなった。このことは、イレッサ審査を進めたF氏が現在国立がんセンターの臨床試験・治療開発部長になっていることからもわかる。開発推進と安全審査が一体となれば何が起こるかは歴然としている。審査センターは小泉内閣の規制緩和路線に乗っかって、迅速な審査というより、合格ありきの審査を進めたのだ。

開発側にも事情があった。多くの分野で貿易黒字がある日本で、医薬品に関しては大幅な赤字となってしまっており、日本発の特効薬剤など絶えて久しい。低迷する薬品産業をてこ入れすることがいわば国策となっていたが、研究費も人材も格段に優遇されている医学分野で、もはや言い訳は認可体制しかなくなっていたのである。この治験には、S氏、F氏といった日本の医学界を代表するような人たちが、早くから取り組んでいた。医学界も分子標的薬の迅速な認可を推し進める意欲に駆られていたのである。

分子標的薬の開発は、とにかく多くの物資を試して見ることが必要な絨毯爆撃的な研究手法が通用する。アイデアと工夫ではなく、金を出せば研究が進むといった類の分野だ。医学界はこれでさらに金回りがよくなる事を約束されていた。山中氏のノーベル賞も、天才の独創的なアイデアで得られたこれまでのノーベル賞とは少し異なり、戦略的に生み出されたノーベル賞だから、実はこの延長線上にある。政府も学会もこれに賭けるところが大きかったのだ。

迅速な審査で、分子標的薬開発を促進することが、国と医学界の必須事項になってしまっていた。このため審査期間中にも薬剤費を自己負担すれば治療に使えるという超特例処置まで取られた。これも異例だ。こういった処置は、副作用が無いガンの特効薬という触れ込みを広げ、肺ガンだけでなくありとあらゆるガン患者に投与する事態が起こった。

その結果、この6ヶ月だけでも240名が間質性肺炎で死亡するという大規模な副作用事故を起こしてしまった。当然の事ながら訴訟が起こり、国と製薬会社の責任が問われることになった。地裁での一審判決は原告の主張を認めるものであり、原告側の負担を考慮して上告せず和解するように求めた。裁判所のこういった動きは明らかに国策に反するものだ。だから、国側からの反撃が起こった。

厚労省医薬食品局が6つの学会に対して「下書き」を示したりして声明を出すよう働きかけ、日本医学会、日本臨床腫瘍学会、日本肺癌学会が「開発意欲を無くす」「開発および承認までの期間がさらに延長する危険をはらむ」「新薬へのアクセスを阻害する」などという声明を出した。厚生省の指示ではなく学会が独自に決めたと言うが、厚生省の働きかけがなければ声明を出すことまでしただろうか。見事なまでの「官産学」連携である。

国は和解を拒否し、上告した。学会声明などをバックにイレッサ裁判バッシングが組織され、裁判所はこれを受け入れて、上告審ではことごとく地裁判決を翻して国と製薬会社の責任を否定した。これが、イレッサ裁判で起こった事の本質である。まだ最高裁での審判があるが、国策判決はおそらく変わらないだろう。最近やっと衝撃的な事実が明らかになった、ジフテリア禍事件は、予防接種法の発足時に有効性を示すための焦りが引き起こしたものだった。ジフテリア禍事件が長く隠蔽されて来たように、この事件の本質も長く隠されて行くだろう。これが日本の現実である。


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